MIZUKI Yuu Sound Sketch #48 by MIZUKI Yuu (C)2007 by MIZUKI Yuu All rights reserved Authorized by the author He Never Sleeps  わたしが眠りにつくとき、彼は目をさましている。  わたしが目をさましたときも、彼は目をさましている。  彼はけっして眠らない人なのだ。  どうして彼はわたしを選んだのだろう。あるいは、どうしてわたしは彼に選ばれたのだ ろう。  わたしは、ドジでわがままな女だ。とりたてて美くしくもなければ、スタイルもよくな い。背も低いし、顔はソバカスだらけだ。  わたしの毎日は、失敗の連続だ。  鍋を火にかけていたことを忘れて、黒コゲにしてしまう。  トーストはかならず、バターのついたほうを下にして落としてしまう。  洗い物をすればコップを割ってしまう。  ご飯は、硬すぎるか、柔らかすぎるようにしか炊けない。  掃除機を振りまわしては、花瓶をこわしてしまう。  読んでいる本にはソースをこぼし、新聞にはコーヒーをぶちまけてしまう。  買ってきた卵はかならず割れているし、豆腐はきっとくずれている。  階段ではつまずく。  キーをつけたまま、車のドアをロックしてしまう。  キャッシュカードはどこかに置き忘れる。  財布は電話ボックスに忘れてきてしまう。  セーターを洗えば、ツーサイズも縮めてしまう。  こんなわたしを、どうして彼は選んでくれたのだろう。  彼はいう。そんなことを気にすることはないよ。そんなつまらないことを。きみにはも っと大切な、すばらしいことがあるんだから、と。  そんなことって本当だろうか。  うたがうわたしの顔を、彼はじっと見つめているばかりだ。  彼に会っていなかったら、わたしはどうなっていただろうか、とよく考える。  わたしのような女をつかまえていてくれる人は、彼のほかにいただろうか。  幼いころからわたしは、まぬけな女だった。おまけに神経質で、すぐに興奮する。  せっかく旅行に連れていってもらっても、つまらなそうにだまりこくっているかと思え ば、急におうちに帰りたいとぐずりだす。  話しかけられても返事はしないし、近所の人にも挨拶はできない。  毎日のようにいじめられて帰ってくるし、そのくせ熱があってもかくして学校に行こう とする。  好き嫌いははげしいし、気にいらない服は絶対に着ようとしない。  宿題は忘れる。  せっかくおみやげに人形をもらっても、気にいらなければ押入の奥に隠してしまう。  彼に会っていなかったら、わたしはどうなっていたのだろう。わたしが日々しでかすこ との後始末を、彼はきちんとやっていってくれる。彼がいなければ、わたしはいったいど うしていいのかわからない。  わたしが眠りにつくとき、彼はいつも起きている。起きてわたしの顔を見つめている。  そして彼はいうのだ。  なにも心配することはない。なにも気にしなくてもいいんだ。  と。  わたしが眠りにつくとき、彼が眠っているのを、わたしは見たことがない。  わたしが眠りにつくとき、彼はいつも目をさましている。  わたしが目をさますとき、彼はもう目をさましている。わたしが目をさましたとき、彼 が眠っているのを、わたしは見たことがない。  わたしがふと夜中に目をさましたとき、彼はきっと起きている。わたしが夜中に目をさ ましたとき、彼が眠っているのを、わたしは見たことがない。  そんなとき、わたしは彼にたずねる。  あなたは眠らないの?  彼はこたえる。ああ、ぼくは眠らないのだ。  わたしは彼にたずねる。  あなたはどうして眠らないの?  すると彼はこたえる。きみを見ているのだ。きみを見ていなければならないから、ぼく は眠らないのだ。ぼくはきみを見ていなければならないから、けっして眠らないのだ。  きみはなにも心配することはない。なにも気にしなくてもいいんだ。  ぼくはけっして眠らずに、ここにこうやっているから。  わたしは彼のその言葉を信じることができる。  彼はけっして眠らない。  彼はけっして眠らない。