MIZUKI Yuu Sound Sketch #47 by MIZUKI Yuu (C)2007 by MIZUKI Yuu All rights reserved Authorized by the author A Red Flower  あなたはいま、一輪の花を見ています。  あなたはその花の名前を知りません。わかるのは、その花がやや紫がかった赤い色で、 五枚の薄い花弁を持っているということです。  花はややしおれ、茎も少し弓なりにうなだれています。  茎は水のはいったコップに差してありますが、花がしおれているのは水が古いせいでは なさそうです。なぜなら水は替えられたばかりだからです。  花がしおれているのは、花が咲いてからもうかなりの日数がたっているからです。  あなたはその花が咲いたところを見ていません。だれかが、咲いた花を切ってコップに 差し、ここに置いたのです。そのときからあなたはこの花を見ています。  まだ蕾から開いたばかりのみずみずしい花を、あなたは見ました。それ以来、毎日水を 替え、できるだけ長く花がしおれないようにしてきました。  でも、いま、花はしおれかかっています。  もうすぐ花は完全にしおれ、花びらを落として枯れてしまうでしょう。それが花である ことの定めだからです。  花はそのことをすこしも悲しがってはいません。悲しがるどころか、こうやってあなた に会えたことを喜んですらいます。あなたに会え、あなたに見つめられ、あなたに水を替 えてもらった。そして、枯れてしまうことをあなたに残念がってもらえている。  花が枯れたら、あなたはこの花のことを忘れてしまうのでしょうか。  いえ、あなたはたしか、この花をスケッチしていましたね。あなたの手帳のすみに、ペ ンでこの花をちいさくスケッチしていました。それだけではなく、色鉛筆で赤い色を塗り ました。あなたはきっと、手帳のそのページをひらくたびに、この花のことを思いだすこ とでしょうね。本当はスケッチなどしなくても、あなたはこの花のことをおぼえていてく れるのかもしれません。でも、花はあなたにスケッチしてもらったことで、いくらかのや すらぎを覚えます。あなたが思いだせるということは、枯れてしまってもまだあなたのな かで命を持っていると想像できるからです。  わたしは、あなたの知らないところで生まれ、咲きました。でも、こうやってあなたと おなじ時間をすごし、あなたに見守られながら枯れていきます。  わたしの存在はやがて消えます。でも、どうぞわたしのことはおぼえていてください。 あなたもまた、わたしとおなじように、いずれは消えていく運命です。でも、あなたのこ とをだれかがおぼえているように、あなたもわたしのことをおぼえていてください。  あなたがおぼえているかぎり、花は花であり、わたしはわたしなのです。