|
「おくのほそ道異聞」の公演が成功裡に終了した。 これは脚本・演出・音楽を担当した水城による、その公演レポートである。 |
|
この日、私は午前5時すぎに起きて、三重県の菰野町というところまで移動した。菰野の〈ウィズユー〉という市民グループと教育委員会が主催するコンサートに出演するためである。出演するのは民族楽器の演奏家である丸山祐一郎氏と、語りの小林沙也加ちゃん。ジョイントコンサートの形だ。私は沙也加ちゃんの語り作品に学曲を提供していて、今回はピアノ演奏でのサポートとしての参加である。 品川から新幹線で名古屋まで。眠い。名古屋から近鉄線で四日市まで。四日市の駅前まで沙也加ちゃんのお母さんで語りの書き手である淑江(すみえ)さんが車で迎えに来てくれた。沙也加ちゃんと、今回手伝ってくれるお兄ちゃんの尚人くんも一緒だ。みんな、愛知県の豊田市から早朝に出発してきたらしい。 沙也加ちゃんの今回の演目は、菰野町の民話「鹿の湯」と、持ちネタの「まもりたいもの」の2作。車のなかで「まもりたいもの」のサポート音楽CDを聴きながら、沙也加ちゃんは練習、私はきっかけの確認などする。 私はピアノを確認させてもらった。ヤマハのC7というサイズのピアノで、とても弾きやすくて、ちょっと女性的で繊細な音色を持ったお嬢さんである。このところ私はピアノにはめぐまれていて、今回もラッキーだ。 あとで聴いた話だが、このピアノはみなさんがとても心を配った選定の結果で、調律もしっかりされているそうだ。今回は少し絞った調律に仕上げられていて、民族楽器との相性がすこし心配だったが、実際にはまったく問題なかった。 応接室に移動して、打ち合わせを兼ねた昼食会。お弁当をいただく。 午後はふたたびホールに移動してのリハーサル。けっこう寒い。 夕方になって沙也加ちゃんの友だちらもやってきた。はるばる豊田や岡崎から。 6時に開場。お客さんがはいりはじめる。このコンサートのために実行委員会の人が総出で、丸山さんの考案されたリサイクル楽器「水カンリンバ」(とても素敵な音色と振動を持っている)を500個も作ったらしい。 そこへおもむろに沙也加ちゃんが登場。丸山さんの打楽器群をバックに、民話「鹿の湯」を語る。出番前はかなり緊張していたのだが、いざ出てしまえばいつものように堂々たるものだ。何度見ても感心してしまう。 沙也加ちゃんの最初の出番が終わったら、今度は丸山さんとこやまはるこさんによる楽しい演奏がはじまり、だんだん森のお祭りといった風情で会場も盛りあがってきた。手製の水カンリンバも会場中に行きわたった。 そして丸山さんが南米の不思議な楽器「ビリンバウ」の演奏を始めた。人間の身体を共鳴器として使う楽器で、やや津軽三味線を思わせるような音色がある。 ひとしきりビリンバウのソロ演奏が続いたあと、私が呼ばれ、ピアノに向かい、即興で丸山さんと合わせる。正真正銘、リハーサルなしのぶっつけ本番。私もビリンバウという楽器にこめられたスピリットに触発され、なにかのとりつかれたように演奏してしまった。ものすごくスリリングで、楽しかった。 そのまま丸山さんはビリンバウを演奏しながら会場を出て行き、私のソロピアノ演奏へと引きつがれる。私は徐々にクールダウンしながら、唱歌の「桜」と「花」の演奏へ。そしてそのまま沙也加ちゃんの「まもりたいもの」のテーマ音楽へと進んでいった。 ここでハプニングが起きた。 ピアノ演奏につづいても、CDに仕込んだオーケストラアレンジ版の「まもりたいもの」の音楽が流れるはずが、違う音楽が流れてしまったのだ。後で聞いたら、CDプレーヤーの誤作動が起きてしまったらしい。 沙也加ちゃんはもう出ている。が、音楽が違う。これでは沙也加ちゃんが語りをはじめられない。 とっさに私はピアノを離れ、民族楽器に向けられていたマイクを取り、MC。適当なことをしゃべって場をつなぐ。そして、時間を稼いでから、もう一度「音楽をお願いします」といいのこして、ピアノに戻る。うまい具合に、今度は決められた音楽がスタートした。その間、沙也加ちゃんは動じることもなく、堂々と立って待っていてくれた。 語りが終わり、最後に会場の方々と「ふるさと」を合唱して、終了。とても暖かく、なごやかで、しかし私としては熱い部分もあったコンサートだった。よかった。 終了後は実行委員会の方や出演者と打ち上げ。近くの居酒屋みたいな店に行き、おいしいビールをいただく。いろいろな話をしていて、気づいたら午前0時を回ってしまっていた。沙也加ちゃんたちはこれから車で豊田までもどるのだ。 泊まりは菰野の不思議な旅館に案内された。古い旅館で、なんとなく大正ロマンの匂いを感じる。が、ゆっくり味わっている余力はなく、そのまま布団にもぐりこんで、すぐに眠ってしまった。 |